ドラクエ6において空飛ぶベッドを入手することになる町クリアベール。
この町は夢の世界と現実世界の両方に存在しています。両者を比較することで現実世界のクリアベールの人々が見ている夢がどのような形で顕現しているか考察します。
ジョンの家の人々
まずクリアベール編の中心となっている空飛ぶベッドの持ち主ジョンについて。ジョン自身はどちらの世界でも亡くなっており、現実・夢の世界共に彼の墓が立てられています。
家族構成は以下の通り
- ハリス(父)
- マゴット(母)
- ジョン(息子。10歳で病死)
- ペットの犬
ジョン一家
現実世界ではハリス・マゴットが息子の早すぎる死に対して悲嘆に暮れている状態。
一方、夢の世界でははじめ入口の扉に鍵がかかっており、家の中に入ることができません。これは彼らが外部に対して心を閉ざしてしまっている状態を象徴しているのではないでしょうか。実際、現実世界のハリスは主人公たちの来訪を疎ましく思っている雰囲気がセリフの端々に現れています。
また、ゆうきのかけらをハリスに渡した後には夢の世界の家の中に入れるようになります(=ハリスとマゴットの心が外部に開いたことを示唆)が、中は無人の空き家。これは彼らが息子の死を前に夢や希望を失っているために夢の世界で顕現しなかったのだと考えられます。
夢の世界が彼らの夢を体現するのであればジョンと3人で暮らしている形になるのでは?という意見もあるかもしれませんが、そうならない理由はハリスとマゴットがジョンの死を受け入れているからだと考えます。
ハリスとマゴットの「ジョンが死んだなんてどうしても信じられない!」という思いが強ければあるいは夢の世界にハリス、マゴット、そしてジョンが3人で暮らしていたかもしれません。
しかし、実際のところ彼らはジョンの死を受け入れた上で、その悲しみとどう向き合っていくか考えている過程にいたように見受けられます。ジョンの死を受け入れているからこそ夢の世界にジョンが存在できなかったというのが妥当なところでしょう。
ペットの犬
現実世界では墓の前にジョンのペットと思われる犬が彼の死を悼むかのように佇んでいます。
一方、夢の世界では人間の男性が墓の前に立っており「ここには私の大切なご主人さまが眠っている」と発言しています。彼の立ち位置と「ご主人さま」のワードから、この男性が現実世界における犬が見ている夢であるとことは間違いないでしょう。
なぜ人間の姿になっているかですが、病気のせいで外出できないジョンの話し相手になることで少しでもジョンの力になりたいという思いが強かったからではないでしょうか。
さり気ないですが、この健気さはクリアベール編の中でも特にグッとくるポイント。
南西の家の夫婦
続いて南西の家の夫婦。登場人物は以下の3人。
- アリシア(妻)
- 学者風の男(夫)
- アリシアに片思いをしている男
アリシアに片思いをしている男
学者風の男にアリシアを取られてしまったことを悔しそうにしている男性。その想いを内に秘めておくだけなら別に問題ないのですが、ずっと彼女の家の前をうろついている辺り、若干危ない人である感が否めません。
さらに夢の世界では「迷子の少年」として登場し、アリシアに保護される形で家の中に居候として侵入することに成功。
夢の世界では10歳に満たない無邪気な少年で他意はなさそうですが、現実世界の彼の願望を体現しているのだと思うと何とも言えない気分に。
ただ、歪んだ嫉妬の感情や独占欲がこのような形で顕在化するのはなかなか人間の欲望を忠実に表現していると思っていて、例えば第二子が生まれた時に第一子が前ほど親に構ってもらえなくなり、幼児退行することで親の気を引こうとすることがあるというのは有名な話ですが、
このパターンのように正攻法で相手の気を引けない場合に、あえて相手を困らせることで気を引こうとするケースは往々にしてあるわけで(ストーカーもこの類)
その結果、「迷子の子どもとしてアリシアに近付く」という形で夢の世界に顕現しているのだと考えます。
この顕現の在り方は家の前をうろつく男性の異質さを良く表していると言えるのではないでしょうか。
アリシア
ストーリーの本筋には全く関係ない人物ですが、なぜか固有の名前が与えられている女性。
現実・夢の世界共に学者風の男の妻として登場し、立場は変わっていません。
彼女自身は現実世界で満たされており、大きな願望や夢は抱えていないように見えます。よって、上述した家の前をうろつく男の願望の強さに影響されて夢の世界では少し生活に変化がもたらされたとのだと考えます。
学者風の男
アリシアの夫。彼女と比べてかなり年上とのこと。現実世界ではアリシアが彼にかなり熱を上げている様子が見て取れますが、夢の世界ではアリシアが迷子の子どもにかかりきりで居場所を奪われ気味な雰囲気。
現実世界との繋がりを考えると、この夫が夢の世界のクリアベールで一番の被害者であるように思えます。
武器防具屋前の老人
武器防具屋の前の老人男性は息子夫婦の存在によって家に居づらい様子が描かれています。現代日本でもありがちな問題ですね。
ただ、彼は悲嘆に暮れるわけでもなく、自分の居場所を見つけるために恋人でも作ろうかと意気込んでいます。そして、夢の世界ではまさに恋人ができている状態。
しかもかなり年下の若い女性ということで、これもまた彼の願望を反映した夢であるということでしょう。
なお、現実世界にはこの恋人の女性に該当しそうな人物は登場しておらず、完全に彼の妄想を具現化させた結果だと推測できます。
北西の家(店)
北西の家は武器屋・防具屋・ゴールド銀行がセットになっている建物。また、2階は居住空間になっています。
家の中で見られるのは以下の人物
- 武器屋の店主(あらくれ)
- 防具屋の店主(商人)
- ゴールド銀行の店主(男性)
- 上述した老人の息子夫婦とその娘(孫)
店員
店員は特に個性がないので割愛・・・といきたいところですが、夢の世界ではなぜか武器屋の主人のみ常にベッドで眠っていて主人公たちがカウンターの前に立って初めて店頭に立ちます。
働きたくないという彼の願望が現れているのかもしれません。
老人の息子夫婦と孫
作中では明言されていませんが、1階にいる兵士風の男性が夫。2階にいるのが妻とその娘で間違いないでしょう。
不思議なことに、この3人は夢の世界では存在していません。代わりに現実世界で妻がいる場所に猫が1匹。
おそらく、上述した老人の願望が強すぎて自分の居場所を奪っている息子夫婦をないものとしてしまったのではないでしょうか。
存在しないはずの理想の恋人を具現化させている辺りからも彼の願望の強さは伺えますし、あり得ない話ではないと思います。
つまり、夢の世界ではこの北西の家は老人とその恋人が住んでいるというわけですね。
余談ですが、現実・夢の世界ともに店員たちは身内ではなさそうなので外部の人間に店舗のスペースを貸し出しているのだと考えられます。
教会
教会の中には神父とシスターのみ。どちらも現実・夢の世界で大きな差異は見られないため割愛。
宿屋
男性の旅人2人組が宿泊中。セリフが少ないのでどういう関係なのか正確に判断できませんが、ベッドに寝ている側の男性は「親方」と発言していることと、アークボルトの旅人の洞窟にて岩崩れを撤去していた男性とグラフィックが同じことから土木工事や大工のような職に従事している人物だと推測できます。
起きている側の男性(グラフィック的には旅の商人風)はその師匠といったところでしょうか。セリフもどことなく「どうしようもない奴だが可愛い弟子」に向けて言っているようにも聞こえます。
ドラクエ4におけるドン・ガアデの例もありますし、ドラクエの世界では旅する建築家というのも割とメジャーな生き方なのかもしれません。
さて、問題は夢の世界。夢の世界ではバニーに扮している男性とレイドック出身の踊り子のペアが宿泊しています。
現実・夢の世界とも2人組で対になっているのでそれぞれがリンクしているのだと思いますが、他の町人たちと比べると少し分かり辛いところ。どういう関係になっているのでしょうか。
ベッドに寝ている男性
バニーの男は夢の世界のクリアベール初来訪時に浴室を開けると慌ててバニースーツに着替えて立ち去るという意味深な演出がされたり、とにかく男性であることを隠したい様子。
思うに、バニーの方は現実世界の弟子の男性の夢に該当し、大工の仕事(ドラクエの世界では主に男性が担う力仕事のイメージ)に嫌気がさしていることを示唆しているのではないでしょうか。現実世界でも寝言で親方に対して謝罪している=うなされているとも判断できますし、辛い思いをしている可能性が大。
「大工業からの逃避⇒男性であることを隠す」という形で夢の世界にて顕現していると考えれば納得がいきます。
旅の商人風の男性
となると、消去法で踊り子の方が師匠の夢に該当するわけですがポイントは踊り子が旅芸人のパノンに弟子入りしたがっている点。
現実世界での彼は旅を楽しんでいると語っています。有名な旅芸人であるパノンに師事したいと言うのは単に彼の芸人になりたいという隠れた願望を反映しているのか、あるいは現実世界で職人である彼の「何か一芸を極めたい」という思いの強さの暗示といったところでしょうか。
ちなみに、夢の世界での相方のバニーは男性なわけですが、踊り子の方も実は男性だったりするのでしょうか。そうすると、2人して女装をしていることになり、現実世界の彼らの関係も色々別の方向に想像が働いてしまいますが、ここから先は情報が少なすぎるので割愛します。
運命の壁の夢と現実
最後にクリアベールの町とは別ですが、クリアベールでのイベントと関係が深い運命の壁について。
運命の壁自体は現実世界にしかなく、ゆうきのかけらが手に入るのも当然こちら。
一方、夢の世界にはクリアベール近辺に現実世界の運命の壁の地上階の洞窟と同じ構造の洞窟が存在しています(スフィーダの盾の情報の1つを教えてもらえる場所)
現実世界では運命の壁に挑んだ冒険者たちを旅の神父が弔っている様子を見ることができますが、この運命の壁に敗れた冒険者たちの無念の思いが夢の世界で運命の壁を消失させているのではないかと考えます。
まとめ
以上、クリアベールにおける現実・夢の世界を
- ジョンの家
- 南西の家
- 北西の家
- 宿屋
の4箇所を中心に比較してみました。個人的には南西の家のちょっと危ない部分がリアルさを感じて好みです。
夢の世界のクリアベールは現実世界の人々の様々な思いが具現化されている。特にジョンの死を受け入れつつも悲しみに暮れて心を閉ざすハリスとマゴット。アリシアの家に迷子の少年として転がり込む男性。存在しないはずの理想の恋人を具現化した老人などの思いの強さは夢の世界のクリアベールに強い影響を与えている▼