ドラクエ6においてカガミのカギを求めて訪れる町アモール。
この町は夢の世界と現実世界の両方に存在しています。両者を比較することで現実世界のアモールの人々が見ている夢がどのような形で顕現しているか考察します。
夢の世界のアモールは厳密にはジーナの夢ではない
アモールでのイベントにおける中心人物はご存知の通りイリアとジーナの2人。
若い頃には「はやてのイリア」「しっぷうのジーナ」の異名を取っていた盗賊のコンビです。このうち、現実世界のアモールに在住しているのは既に高齢となったジーナのみ。
夢の世界のアモールはこのジーナの思いの強さによって具現化していると言っても過言ではありません。
ではなぜ本記事のタイトルを「ジーナが見ている夢」ではなく「アモールの人々が見ている夢」としたかですが、夢の世界はあくまでも現実世界に暮らす全ての人々の思いが干渉しあって具現化するものであり、アモールにおいてはたまたまジーナの思い(=後悔の念)が強すぎるため夢の世界で最も強く顕現している(他の町人たちの思いを打ち消すほどに)からです。
つまり、「夢の世界のアモールは現実世界のアモールの全ての人々が作り出しているが、ジーナの影響が強すぎるせいであたかもジーナ個人の夢の世界であるかのように見えている」ということ。
その結果、夢の世界のアモールはまるで現実世界の数十年前のアモールをそのまま映し出したかのような世界として存在しています。
以下、具体的に夢と現実のアモールの様子を比較します。比較のポイントとなるのは
- 北東の家
- 北西の家
- 西の家
の3箇所。
北東の家と北西の家の家族
アモールの北東の家と北西の家には密接な関係があります。それぞれ現実世界をベースに切り分けていきます。
北東の家
現実世界の北東の家には学者風の男とその妻、それから娘が3人で暮らしています。
また、北西の家の庭にいる老人(常に滝の音がうるさくて聞いてもいない情報を教えてくれる人物)から、この学者風の男が彼の息子であるということが分かります。
一方、夢の世界の北西の家の庭にはやたら自分が物知りであることをアピールする少年がおり、北東の家の養子にならないか打診されている話を聞くことができます。
このことから、夢の世界の物知り少年=現実世界の北東の家の学者風の男であることが分かります。
ちなみに、夢の世界の北東の家の主人も学者風の男であり、家を継ぐ人間には頭の良さを求めているであろうことが伺えます。何を以って頭が良いとするかは分かりませんが、北西の家の少年の頭の回転の早さが彼の琴線に触れて養子に迎えたいと思ったのは間違いないでしょう。
北西の家
現実世界の北西の家はホームバーをやっている夫婦とその息子の3人家族が住んでおり、妻がバニーの格好をしているというなかなかインパクトのある光景。
対する夢の世界では現実世界の華やかさと打って変わって地味な老女とその息子(地下室で酒を飲んでいる)が暮らしているのみ。上述した物知り少年は老女の孫に当たるのでしょうね。少年の母親がいない理由については不明です。
ここで注目すべきは夢の世界のタンスに「うさみみバンド」が入っている点。
僕は初めてドラクエ6をプレイしてアモールのこの家の様子を見た時に「老女がバニーになりたいという夢を持っているため、夢の世界でホームバーを開いてバニーになっているという方が自然じゃないか?」と感じました。
ただ、実際には現実世界の方がホームバーで、夢の世界の方が老女とうさみみバンドの組み合わせなのでこの考えは当然間違いです。
ちょっと複雑なので北西の家における夢の世界と現実世界の人の移り変わりを整理すると
- (夢)老女⇒(現)他界
- (夢)地下で酒を飲む息子⇒(現)庭にいる老人
- (夢)孫(物知り少年)⇒(現)北東の家の学者風の男
- (夢)対応なし⇒(現)ホームバーの家族
ホームバーの3人家族は夢の世界に対応する人物が存在せず、外部から越してきたのだと考えられます。
その際、タンスに残っていたうさみみバンドからインスピレーションを得てホームバーを開設するに至ったのかもしれません。
西の家の家族
次に庭に井戸がある西の家について。
現実世界では夫婦が住んでおり、夫の方から「去年亡くなった親父がジーナのファンだった」という話を聞くことができます。
一方、夢の世界ではまさにその「ジーナのファンだった親父」が生前の若い姿で登場しており、奥さんがいながらジーナに憧れている様子が描かれています。また、そのせいで夫婦ゲンカも絶えなかったという話も。
ちなみに、夢の世界では彼らに子どもがいる様子はなく、現実世界における夫がまだ生まれる前の時代だったことが分かります。
宿屋や武器・防具・道具屋、教会の人々
この他にもアモールには南東の宿屋や南西の武器・防具屋、東の道具屋、そして町の中央にある教会などの施設がありますが、現実世界ではいずれもアモールに定住していない旅の人間らしき人物や会話の内容が時系列の情報と結びつかない人物しか存在しておらず、過去の世界と比較するのに適していませんので割愛します。
ホラービースト撃破後のアモール
さて、主人公たちがアモール北の洞窟でホラービーストを撃破した後のアモールではいくつか変化が起こります。ここからはその変化から読み取れる夢の世界のルールを考察します。
ジーナを救っても夢の世界のアモールが変化しない理由
ジーナを悪夢から救った時点でジーナの過去に対する後悔の念が弱まったことに疑いの余地はありません。イリアとも再会でき、その後穏やかな晩年を過ごした様子が描かれていることですしね。
にも関わらずジーナの後悔の念によって具現化している夢の世界のアモールがホラービースト撃破後もその形を変えないのはなぜでしょうか。
これは、夢の世界は一度具現化されたらその時点のカタチをベースに時を刻み始めるからだと考えます。
現実世界の人々の思いが変動するたびに夢の世界がその思いに連動して再構成されるような不安定な仕組みであれば、夢と現実を頻繁に行き来している主人公たちがとても同一性を保っていられないでしょうからね。
ジーナとイリア死後のアモール
最終的には現実世界のジーナとイリアは穏やかに天寿を全うします。
そして、そのタイミングで夢の世界に子どものジーナとイリアが出現。これはもう疑いようもなく本人達なのですが、死んだ人間も夢の世界で顕現できるのかという疑問があります。
それが可能なら現実世界で死んだ人間がどんどん夢の世界に流入していき、あたかも夢の世界が死後の世界であるかのような立ち位置になってしまいます。
さすがにこれに関しては「一部の人間のみ可能」といったところでしょう。カルベローナの人々のように特殊な力を持っていれば自らの意思で夢の世界に精神体を飛ばすことが可能であるケースもありますが、そういった例外を除けばやはりここまで述べてきたように強い思いを持つ人物が夢の世界にも強く影響を与えるという基本的な法則通りで、それが死後であっても作用しているということではないでしょうか。
また、ここで面白いのは夢の世界で「子どものジーナとイリアがいつから教会にいるのか全く思い出せない」という話が聞ける点。
「ある日突然現れた」ではなく「いつからいるのか全く思い出せない」と言っていることが重要で、これはつまり「ある日突然夢の世界に子どものジーナとイリアが具現化した」という世界の矛盾を解消するために人々の記憶が改変・・・とまではいきませんが、曖昧にさせられたということ。
先に「現実世界の人々の思いが変動するたびに夢の世界が連動して再構成されるような不安定な仕組み」を否定させていただきましたが、一度具現化した夢の世界はこのように矛盾を生じそうになると人々の記憶に細工をしつつ、大きな矛盾を生じない小規模な再構成であれば行われるのではないかと考えます。
まとめ
夢の世界のアモールは現実世界におけるジーナの夢を強く反映した結果、あたかも過去のアモールを再現したかのような世界になってしまった。その後、ストーリーの進行とともにジーナの心情も穏やかになり、最終的には天寿を全うするが、それでも夢の世界は具現化された時点の過去のアモールをベースにしたままで変化しない。この事実から、夢の世界は具現化された時点をベースに時を刻み始め、「その後の現実世界における人々の思いを都度反映して再構成されるような不安定さはない」などのルールが読取れる▼